犬や猫とどう暮らす?「命」と向き合うペットライフの基本

最終更新日 2025年8月6日 by amajaz

朝、愛犬の温もりで目覚める。
夜、猫の喉を鳴らす音に包まれて眠りにつく。
こんな当たり前のような日常が、実はかけがえのない奇跡の積み重ねだということを、あなたは感じたことがありますか。

現在、日本では約1,595万頭の犬や猫が家族として暮らしています[1]。
これは15歳未満の子どもの数を上回る数字です。
しかし、その陰では年間9,017頭もの命が殺処分されているという現実もあります[2]。

「命」と向き合うペットライフとは、決して難しいことではありません。
ただ、相手が言葉を話せない分、私たちがその声なき声に耳を澄ませる必要があるのです。

私は長野県の山間地で、保健所から引き取った2匹の犬と暮らしています。
15年間の保護活動を通じて出会った数え切れない命たち。
その一つひとつが教えてくれたのは、「共に生きる」ということの本当の意味でした。

この記事では、犬や猫と暮らすための基本から、看取りまでの道のり、そして私たちが直面している社会課題まで、実体験を交えながらお伝えしていきます。
あなたとあなたの大切な家族が、より深い絆で結ばれることを願って。

動物好きの長田雄次さんが書いている「長田雄次の動物ブログ」も参考になります。

ペットを迎える前に考えること

命を預かる責任とは

「この子を迎えたい」
ペットショップや保護施設で運命的な出会いをした時、誰もがそう思うでしょう。
でも、ちょっと立ち止まってみてください。

犬の平均寿命は約14年、猫は約15年。
この先15年間、あなたの生活はどう変化するでしょうか。
転勤、結婚、出産、介護、そして自分自身の老い。
すべての変化を受け入れながら、最後まで寄り添えますか。

責任とは、「飼う」ことではなく「共に生きる覚悟」なのです。

「かわいい」だけではすまされない現実

毎月の医療費は平均して犬で約16,000円、猫で約11,000円[1]。
これに加えて、去勢・避妊手術、予防接種、急な病気やケガの治療費。
10歳を超えれば、がんや心臓病、腎臓病などの慢性疾患も増えてきます。

朝5時の散歩も、真夏の暑い日も、雪の降る寒い朝も。
旅行に行けない、長時間の外出ができない。
吐瀉物の処理、粗相の後始末。

それでも、その子の瞳を見つめた時、すべてが「愛おしい日常」に変わる。
そんな魔法のような瞬間が、必ずあなたを待っています。

飼う前に見ておきたい保護動物たちの背景

私が初めて保健所を訪れたのは、20代半ばの頃でした。
檻の中で震える犬たち。
人間不信の眼差し。
それでも、差し出した手をそっと舐めてくれた茶色い雑種犬。

その子は、飼い主の引っ越しを理由に持ち込まれた8歳のオス犬でした。
8年間共に暮らした家族に捨てられ、それでも人を信じようとする姿に、私は言葉を失いました。

保護動物を迎えることは、確かに覚悟が必要です。
トラウマを抱えている子、病気を持っている子、高齢の子。
でも、だからこそ、新しい家族との出会いに、彼らは誰よりも感謝の気持ちを示してくれるのです。

日々の暮らしの中で育む共生

食事・運動・健康管理:基本を大切にする

「今日も元気に食べてくれた」
この単純な喜びが、どれほど大切なことか。

良質なフードを選ぶこと。
新鮮な水をいつでも飲めるようにすること。
適度な運動で筋力を維持すること。
定期的な健康診断で病気を早期発見すること。

基本的なことですが、これらの積み重ねが、10年後、15年後の健康寿命を左右します。
特にシニア期には、DHA・EPAなどの必須脂肪酸や抗酸化物質を含む食事が、認知症予防にも効果的です[3]。

毎日の食事の時間を、健康チェックの機会にしてみてください。
食欲はあるか、水は飲んでいるか、うんちの状態はどうか。
小さな変化に気づくことが、大きな病気の予防につながります。

コミュニケーションの積み重ねが信頼を育む

犬や猫は言葉を話せません。
でも、彼らは全身で気持ちを表現しています。

尻尾の動き、耳の向き、瞳の輝き。
鳴き声のトーン、体の緊張、呼吸のリズム。
すべてが彼らの「言葉」なのです。

毎日5分でもいい。
スマートフォンを置いて、テレビを消して、ただその子と向き合う時間を作ってみてください。
ブラッシングをしながら、優しく話しかける。
一緒に遊びながら、その子の好きなことを見つける。

そんな小さな時間の積み重ねが、言葉を超えた深い絆を育んでいきます。

問題行動にどう向き合う?怒る前にできること

吠える、噛む、粗相をする。
これらの「問題行動」の裏には、必ず理由があります。

不安、恐怖、痛み、退屈、要求。
まずは「なぜ?」を考えてみてください。

私の保護犬の一匹は、雷が鳴ると必ずソファの下に隠れて震えていました。
叱るのではなく、安心できる場所を作り、雷の音に少しずつ慣れさせる訓練を重ねました。
今では、雷が鳴っても私の隣でじっとしていられるようになりました。

怒鳴ったり、叩いたりすることは、問題を悪化させるだけです。
その子の気持ちに寄り添い、根気強く向き合うこと。
それが本当の「しつけ」なのだと、私は信じています。

命の終わりと向き合うとき

シニア期のケアと心構え

7歳を過ぎると「シニア犬」と呼ばれるようになります。
日本では現在、約45.8%の犬がシニア期を迎えています[3]。

白内障で目が見えにくくなる。
耳が遠くなる。
足腰が弱くなる。
認知症の症状が出始める。

でも、老いは決して悲しいことばかりではありません。
ゆっくりとした散歩を楽しむようになり、日向ぼっこの時間が増え、あなたのそばにいることを何より幸せに感じるようになります。

シニア期こそ、これまでの感謝を形にする時期。
柔らかいベッド、滑りにくい床材、段差を解消するスロープ。
東洋医学を取り入れた緩和ケアも、近年注目されています。

看取りの経験から学んだこと

15年前、私が最初に保護した犬を看取った時のことです。

最期の3ヶ月は寝たきりでした。
2時間おきの体位変換、オムツの交換、流動食の給餌。
正直、肉体的にも精神的にも限界でした。

でも、ある朝、その子が私の手をじっと見つめて、かすかに尻尾を振ったのです。
「ありがとう」と言っているように感じました。
その瞬間、すべての疲れが吹き飛びました。

看取りは、決して「諦め」ではありません。
最期まで尊厳を持って生きることを支える、究極の愛情表現なのです。

悲しみとともに進む「その後の時間」

愛する子を失った後の喪失感は、想像以上に深いものです。
ペットロスという言葉では表現しきれない、心の空洞。

でも、悲しむことは、その子を愛した証です。
無理に立ち直ろうとしなくていい。
涙が枯れるまで泣いていい。

時間が経てば、悲しみは少しずつ、温かい思い出に変わっていきます。
そして、いつかまた新しい命との出会いがあるかもしれません。
それは決して「代わり」ではなく、新しい物語の始まりなのです。

ペットを取り巻く社会の課題

殺処分、遺棄、繁殖の裏側

2023年度、日本では9,017頭の犬猫が殺処分されました[2]。
10年前と比べれば大幅に減少していますが、それでも毎日約25頭の命が失われている計算です。

特に問題なのは、無責任な繁殖です。
パピーミル(子犬工場)と呼ばれる劣悪な環境での大量繁殖。
売れ残った子犬・子猫の行方。
繁殖犬・猫の過酷な生涯。

私たちが「かわいい子犬・子猫」を求める限り、この負の連鎖は続きます。

保護活動の現場から見える光と影

保護活動の現場は、決して美しいものばかりではありません。

虐待された犬の心の傷を癒すのに何年もかかることがあります。
病気の猫の医療費で団体の運営が危機に陥ることもあります。
里親詐欺や、一度譲渡した動物が再び捨てられるケースも。

それでも、活動を続ける理由があります。
新しい家族と出会い、幸せそうに暮らす元保護犬・猫たちの姿。
「この子に出会えて本当によかった」という里親さんの言葉。
少しずつですが、確実に変わりつつある社会の意識。

光があるから、影と向き合える。
そう信じて、今日も活動を続けています。

海外の動物福祉先進国に学ぶ共生のヒント

ドイツには「ティアハイム」と呼ばれる動物保護施設が500カ所以上あります[3]。
原則殺処分をせず、新しい家族が見つかるまで動物たちをケアし続けます。

スイスでは、犬を飼う前に最低4時間の講習受講が義務付けられています。
マイクロチップの装着も義務化され、遺棄を防ぐシステムが整っています。

これらの国々に共通するのは、動物を「モノ」ではなく「命ある存在」として扱う文化です。
犬税などの制度もありますが、それは動物福祉のための財源として活用されています。

日本も少しずつ変わってきています。
2019年の動物愛護法改正で、生後56日以下の子犬・子猫の販売が禁止されました。
マイクロチップの装着も段階的に義務化されています。

でも、本当に大切なのは法律ではなく、私たち一人ひとりの意識なのです。

私たちにできること

飼う責任、支える選択

「ペットを飼う」ことだけが、動物への愛情表現ではありません。

今、自分の生活環境でペットを飼えないなら、無理に飼わない勇気も必要です。
代わりに、保護団体でボランティアをする。
寄付で活動を支援する。
SNSで正しい情報を発信する。

すべてが、命を救う行動につながります。

地域とのつながりを生かした取り組み

地域猫活動をご存知でしょうか。
野良猫に不妊去勢手術を施し、地域で見守る活動です。

私の住む地域でも、3年前から始めました。
最初は反対の声もありました。
でも、きちんと管理することで、猫の数は増えず、糞尿被害も減りました。
今では、地域の人たちが交代で餌やりや清掃をしています。

小さな活動でも、続けることで地域が変わります。
一人でできることは限られていても、みんなで協力すれば大きな力になるのです。

「命を想う暮らし」を広げるために

毎日の小さな選択が、大きな変化を生みます。

ペットショップで衝動買いをしない。
保護犬・猫の譲渡会に足を運んでみる。
適正な価格のフードやグッズを選ぶ。
かかりつけの動物病院を大切にする。

そして何より、今一緒に暮らしている子を、最期まで大切にすること。
その姿を見た子どもたちが、次の世代の動物愛護の担い手になるのです。

まとめ

犬や猫と暮らすということは、命の重みと向き合うということ。
楽しいことばかりではないけれど、それ以上に得るものがあります。

無条件の愛情。
言葉を超えた信頼。
かけがえのない思い出。

現在、日本では約1,595万頭の犬猫が家族として暮らし、その一方で年間9,017頭が殺処分されています。
この現実を変えられるのは、私たち一人ひとりの意識と行動だけです。

命を迎える前に、しっかりと考える。
共に暮らし始めたら、最期まで寄り添う。
社会の課題に目を向け、できることから始める。

これが、本当の意味での「ペットライフ」なのだと、私は信じています。

最後に、あなたに問いかけたいと思います。

あなたにとっての「ペットライフ」とは何ですか?
その答えは、きっとあなたとあなたの大切な家族との間にあるはずです。

動物たちの声なき声に耳を澄ませながら、今日も私は、長野の山間で2匹の犬と共に暮らしています。
すべての命が、幸せに生きられる社会を願って。

参考文献

[1] 2024年全国犬猫飼育実態調査の結果について – 一般社団法人ペットフード協会
[2] 令和5年度 犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容状況 – 環境省
[3] ペット先進国ドイツの動物保護施設「ティアハイム」の取り組み – PEDGE