自治体のバリアフリーマップ、どこまで信じて出かけていいのか

最終更新日 2026年8月21日 by amajaz

はじめまして、西野千秋と申します。
中堅メーカーの人事部に12年おりまして、後半の5年は障害者雇用の担当をしていました。
いまは独立して、中小企業から障害者雇用の相談を受けながら、こうした記事を書いています。

数年前から、母が車いすを使うようになりました。
それ以来、休日に出かけるときは必ず、行き先の自治体が公開しているバリアフリーマップを事前に開くようになりました。

そして何度か、空振りをしています。
「多目的トイレあり」と書かれていた施設で、実際には使えなかったことがあります。
設備がなかったわけではありません。
書かれていた情報が古かったり、書かれていない条件が現地にあったりしたのです。

そのたびに考えました。
自治体のバリアフリーマップは、どこまで信じて出かけていいものなのでしょうか。

結論から書きます。
自治体のマップは「候補を絞る道具」としては十分に使えます。
ただし「行けると確定させる道具」としては足りません。
この記事では、その線引きがどこにあるのかを、国が公表している調査結果をもとに具体的に整理します。

そもそも、マップがある自治体のほうが少ない

まず知っておいてほしい事実があります。
バリアフリーマップは、全国どこの自治体にもあるものではありません。

国土交通省が全国1,741の地方公共団体を対象に実施した調査(2019年9月11日から10月4日、回答1,256件・回答率72.1%)では、次の結果が出ています。

  • 市区町村が主体となって作成している:9.6%
  • 市区町村以外が主体となって作成している:6.6%
  • 作成予定である:2.5%
  • 作成していない(作成予定はない):67.8%
  • 作成状況は把握していない:18.8%

7割近くが作っていません。
作っていない理由の上位は「作成方法が分からない」45.0%、「作成の必要性を感じていない」39.1%でした。
自由記述には、予算不足、人員不足、担当部署が決まっていない、といった声が並んでいます。

土台になる計画のほうも、似た状況です。
バリアフリー法にもとづく移動等円滑化促進方針(マスタープラン)を作成している市町村は令和7年度末時点で54自治体、全体の3.2%。
移動等円滑化基本構想は338自治体、19.5%です。

しかもこの数字には、大きな地域差があります。
基本構想の作成割合は、大阪府76.7%、神奈川県51.5%、東京都50.0%に対して、高知県2.9%、宮崎県3.8%、徳島県4.2%。
四国4県はマスタープランの作成がゼロでした。

つまり、目的地のバリアフリーマップが見つからないとき、それはあなたの探し方が悪いわけではありません。
最初から存在しない可能性のほうが高い、というのが全国の実態です。

「ある」と書いてあるのに使えない、が起きる理由

ここからが本題です。
マップがある自治体でも、書かれた情報と現地が噛み合わないことがあります。
その原因は、マップの作り方そのものにあります。

載っているのは「有無」で、「寸法」ではない

先ほどの国土交通省の調査には、マップにどんな情報を載せているかの内訳があります。
マップを作成している136自治体への設問です。
これを見ると、傾向がはっきりします。

設備「有無」の掲載率判断に必要な情報の掲載率
車椅子対応/多機能トイレ有無 90.4%出入口の幅 17.6%/大きさ(個室面積) 8.1%
建物出入口段差の有無 55.9%出入口の幅 27.2%
エレベーター有無 66.2%出入口の幅 13.2%/かご・乗降ロビーの形状 1.5%
身体障害者用駐車場有無 66.9%区画の幅 2.2%/区画から出入口までの経路 1.5%

多機能トイレが「ある」ことは9割の自治体が書いています。
ところが、その個室の大きさまで書いている自治体は8.1%しかありません。

これが「あると書いてあったのに使えなかった」の正体です。
あるかないかは分かる。
けれど、自分の車いすで入って向きを変えられるかどうかは、マップからは分からない。
そういう設計になっているのです。

車いすの幅も、必要な回転スペースも、移乗する向きも、人によって違います。
「対応」という二文字は、その違いを吸収してくれません。

基準を満たしていることと、自分が使えることは別

もうひとつ、見落とされがちな点があります。
建物が法律上の基準を満たしていても、自分にとって使いやすいとは限らない、ということです。

バリアフリー法の建築物移動等円滑化基準は、たとえば便所について「車いす使用者用便房を1以上設けているか」「車いすで利用しやすいよう十分な空間が確保されているか」といった形で定められています。
この基準は2025年6月1日施行の見直しで強化され、車椅子使用者用便房の複数化が柱に据えられました。
裏を返せば、それ以前に建てられた施設は「建物にひとつあればよい」という考え方で作られています。

そして国土交通省自身が、次のように書いています。

「施設のバリアフリー化に際し、当事者参画を実施せずに整備した結果、障害当事者等にとって使い勝手が優れないなどの問題が生じている事例もある」

これは2025年6月に公表された、2026年度からの第4次バリアフリー整備目標の最終とりまとめに書かれた一文です。
基準どおりに作っても使えないことがある、と国が公式に認めているわけです。

手すりの位置が自分の側と逆だった。
ゴミ箱が置かれていて便器に寄れなかった。
こうした話は、当事者への取材記事でくり返し報告されています。
基準は最低ラインであって、使い勝手の保証書ではありません。

情報が古いまま止まっていることがある

3つ目の論点は、情報の鮮度です。
これも数字が出ています。

マップを作成している自治体の更新状況は、次のとおりでした。

  • 定期的に更新している:19.9%
  • 不定期で更新している(情報が提供される都度など):34.6%
  • 直近1年以上更新していない:41.2%

4割が1年以上手つかずです。
さらに、工事などで設備が使えないという臨時の情報を提供している自治体は、わずか1.5%でした。
エレベーターが工事中で止まっている、といった情報は、マップではまず拾えないと考えたほうがいい数字です。

マップの有効性や使いやすさについて評価を実施したかという設問では、87.5%が「評価は未実施」と回答しています。
作ったあと、使えているかどうかを誰も確かめていないケースが大半、ということです。

自治体側もこの問題を分かっています。
国土交通省がまとめた「みんなでつくる」バリアフリーマップ作成マニュアルには、「提供している情報が、実際の状況と異なっていると、せっかく作成したバリアフリーマップの意義が薄れてしまいます」と明記されています。
調査の自由記述にも、「予算に限りがあり、情報が変わっていることが分かっていてもすぐに更新できない」という担当者の声が残っています。

マップの側も、正直に書いているところがあります。
大阪市の交通バリアフリーマップには、「掲載内容については、定期的に更新を行っていますが、施設の改修等により掲載内容が現況と異なる場合がございます」と書かれています。
そのうえで、違いに気づいたら意見受付フォームから連絡してほしい、現地確認をして修正する、という体制まで示しています。

作り手が「現況と異なる場合がある」と書いている。
これは不誠実なのではなく、いちばん誠実な書き方だと私は思っています。

それでも、自治体マップを開く価値はあります

ここまで弱点ばかり並べましたが、私は出かける前に必ず自治体のマップを開きます。
理由は3つあります。

ひとつ目は、位置と存在の大枠については、民間の投稿型サービスよりカバー範囲が広い場合があること。
ふたつ目は、施設の名称や所在地といった変わりにくい情報は、古くても使えること。
3つ目は、当事者が作成に関わったマップには、明らかに情報の質の違いが出ることです。

国土交通省のマニュアルは、マップ作りにおいて「まちあるき点検」を行い、多様な障害当事者や住民が参画することを推奨しています。
バリアフリー情報だけでなく、どこにバリアがあるかというバリア情報も外出には重要だ、とも書かれています。
歩道に自転車が放置されている、施設は整っているのにそこまでの経路が途切れている。
こうしたことは、当事者が実際に通ってみないと出てきません。

この「当事者が調査そのものに加わる」やり方を、事業として続けている会社もあります。
たとえば東京都府中市にある株式会社T.D.Sという会社の会社概要を見ると、従業員46名のうち32名が障害のある社員です(2025年6月現在)。
測量大手である国際航業の特例子会社で、地図データの作成を本業としながら、バリアフリー調査やバリアフリーマップ作成では、障害のある社員自身が企画や現地調査に加わる体制をとっています。
調べる人と使う人が同じである、というのは、この分野ではそのまま情報の精度に返ってきます。

国の方針も、この方向に動いています。
第4次バリアフリー整備目標では、基本構想などを作成した自治体のうち、当事者の参画のもとで継続的に見直しに取り組んでいる自治体の割合を、令和6年度末時点の約30%から約60%に引き上げる目標が掲げられました。
自治体のマップが今後どうなるかは、この当事者参画がどれだけ実際に回るかにかかっていると思います。

出かける前に、私が確認している5つのこと

最後に実務の話をします。
母と出かけるとき、私が順番にやっていることです。

  • マップの更新日を探す。見つからないマップは「参考情報」に格下げする
  • 「対応」の二文字ではなく、幅と広さの数字を確認する
  • 施設の公式サイトに写真があれば見る。文字情報より写真のほうが正確なことが多い
  • 当日の稼働状況は電話で聞く。工事や故障はマップに載らない
  • 現地と違っていたら、自治体の意見受付に連絡する

電話をかけるときにコツがあります。
「バリアフリー対応ですか」と聞くと、たいてい「大丈夫だと思います」という答えが返ってきます。
悪気があるわけではなく、答える側に判断の基準がないのです。

私はこう聞くようにしています。

「車いすで伺います。入口の幅は何センチありますか。段差は何センチですか。多目的トイレの中で、車いすが向きを変えられる広さはありますか」

数字で聞くと、相手も測りに行ってくれます。
曖昧な質問には曖昧な答えしか返ってこない、というだけの話です。

情報源ごとの使い分けは、こう考えています。

情報源信じてよいこと自分で確かめること
自治体のバリアフリーマップ施設の場所、設備がある可能性寸法、当日の稼働状況、更新日
施設の公式サイト・写真現在の見た目、設備の形撮影時期、写っていない部分
利用者投稿型のアプリ当事者目線の使用感地域による情報量の差、投稿時期
施設への電話当日の状況、臨時の閉鎖数字で聞き直す

どれかひとつで完結させない。
これが、いまのところいちばん確実なやり方だと思っています。

まとめ

自治体のバリアフリーマップについて、この記事で見てきたことを整理します。

  • 全国の約7割の自治体は、そもそもバリアフリーマップを作っていない
  • 作っている自治体でも、載っているのは設備の「有無」が中心で、個室の広さまで載せているのは8.1%にとどまる
  • 4割超のマップは直近1年以上更新されておらず、工事などの臨時情報を出しているのは1.5%
  • 一方で、当事者が調査に加わって作られたマップは、経路上のバリアまで拾えている
  • 出かける前は、更新日・寸法・当日の稼働状況の3点だけでも自分で確かめる

厳しい数字を並べましたが、私はバリアフリーマップという仕組みそのものには期待しています。
第4次整備目標で当事者参画の数値目標が入ったこと、そして障害のある人自身が調査に加わる会社が現に事業として成り立っていること。
この2つは、情報の質が変わっていく条件がそろいつつあることを示しています。

そのうえで、今日出かける私たちにできるのは、マップを疑うことではなく、マップの守備範囲を正しく知ることです。
候補を絞るところまではマップに任せる。
最後の確認は自分でする。
そして違っていたら、ひとこと自治体に伝える。

その積み重ねが、次に同じ場所へ行く誰かの空振りを減らします。